福岡県立大学人間社会学部人間形成学科の吉岡和子さんを語り手に迎え、開催しました。
「心理学」分野でのカフェペディア開催は今回で2度目となります。前回は2009年12月、第二十三夜「知の巨人、ベイトソンからはじめる臨床心理学超入門!」をタイトルに九州工業大学保健センターの菊池悌一郎さんを語り手に迎えて開催しました。今回は、再度、心理学をテーマにカフェペディアを開催したいと菊池さんに連絡させていただいたところ、吉岡さんを紹介していただき、今回のカフェペディアの開催となりました。語り手から語り手の紹介をしていただく・・・某お昼の番組の某コーナーようです。
語りの時間、スタートです。
「心理学を専門にしている人は他人の性格がすぐにわかると思われがちですが、他人の性格はすぐにはわかりません。」
世間一般の心理学の専門家に対するイメージを最初から否定していただきました。確かにそうです。他人どころか自分の性格ですらよくわからなくなります。だからこそ世間一般では心理学に過度な幻想を抱いてしまうのかもしれません。
続けて、ぼそっと吉岡さんが言いました。
「すぐにわからないことを知っているというのが専門家なのかな・・・。」
専門家の口からでるこの言葉は深いです。
吉岡さんがぼそっと言う言葉、その後の語りでも度々あるのですが、これが非常にしみるのであります。
さらに続けて
「他人の性格はすぐにはわかりません。カウンセラーはまず自分を知ることからはじめます。」
“汝自身を知れ“という言葉を思い出しました。
私としては、この言葉をかみ締めるだけで今回のカフェペディアは満腹のような気がします。
いえいえ、今回のカフェペディアはまだまだ始まったばかりです。
さて、これまで私は“心理学”と“臨床心理学”ごちゃまぜに言葉を使っておりましたが、そもそも心理学と臨床心理学はどう違うのでしょうか?
心理学は大きく分けて基礎心理学と応用心理学に分けられます。
基礎心理学では実験などを通じて、心理を科学的に捉え、一般法則を導き出していきます。一方、応用心理学は基礎心理学をベースに実際の問題や人を支援していきます。臨床心理学はその応用心理学の一部門だということです。
前回の語り手の西田さんにうかがった物理学が基礎物理学と応用物理学にわかれているという話を思い出しました。どの分野も基礎と応用に分かれているのですね。
臨床心理学を基盤に実際の現場に当る専門化は臨床心理士と呼ばれますが、これは国家資格にはなっていないそうです。なぜならば国家資格となると臨床心理士と一つの分野にまとめることになりますが、応用心理学の分野は幅広いためその調整がなかなかうまくいっていないそうです。
臨床心理士の領域は、スクールカウンセラーなどの教育分野から医療、保健、福祉、労働、産業など様々な分野にわたります。吉岡さん現在は大学の研究者ですが、過去そして現在もいろいろな分野での臨床心理士としての活動を行っているそうです。
実際の現場ではどのようにして臨床心理士は治療(?)を行っていくのか?
まずは臨床心理面接を行い臨床心理士とクライエントの関係性を築いていきます。クライエントには言葉にして癒される人、そうでない人もいます。それに合わせて、精神分析、夢分析、遊戯療法、クライエント中心療法、行動療法、箱庭療法などクライエントにアプローチする方法もいろいろあります。臨床心理士は臨床心理面接を通じて、クライエントにどのような方法があっているのかを確認していきます。
心理療法にはいろいろな方法がありますが、臨床心理士はその全てを網羅しているのでしょうか?もちろん臨床心理士の人はそれぞれの方法を知識的に知っています。しかし、それぞれの臨床心理士に得意分野があり、アプローチの仕方も異なっているとのことです。
会場の菊池さんからも
「落語における上方落語と江戸落語の違いや流派みたいなものです。学ぶ師匠の違いにもよるかなー。」
とコメントがありました。
さらに
「ようは芸風の違いです。」
芸風ですか・・・。なんとなくイメージできました。

臨床心理面接後は、その人らしさを理解しようとする手がかりを得るために臨床心理査定を行います。査定ですが、その人を評価するのではなく、どう支援していくかを探っていくために行うものです。
心理査定は心理アセスメントとも呼びますが、その手法もさまざまです。
知能検査、人格検査、質問紙法、作業検査法、、投影法など様々な手法があり、これらを組み合わせて心理査定を行っていくのだそうです。
吉岡さんはこの中の投影法、ロールシャッハ法について研究をされていました。
ロールシャッハ法はロールシャッハが考案作成した10枚のカードです。
吉岡さん、ロールシャッハの写真を示し、一言。
「第一印象は、かっこいい人だなー。ブラッドピットに似ているなー」
ロールシャッハ法とは10枚のカードに描かれた左右対称の模様が何に見えるかを語ってもらい、その見方からその人のパーソナリティーを探っていきます。10枚のカードはデザイン、示す順番も決まっているそうです。
どのようなカードか見てみたい!と思ったのですが、ロールシャッハ法のカードは刺激が強いので一般の場には出さないようにされているそうです。刺激が強いというとさらに興味がわいてしまうのですが、すごく不快に感じてしまうこともあるそうです。
「何に見えるか?」の問いに会場からは
ネコ、カエル、ヘチマ・・・
などの答えが出ました。
一枚の絵を見て、形で見る人、色で見る人、動きを見る人、ぞれぞれです。10人の人が見れば10人の人の反応の仕方があります。そこにその人が困ったときの対処の仕方やコミュニケーションのあり方が現れるのだそうです。
会場から質問です。
「知り合いの臨床心理士にロールシャッハテストをしてくれと頼んだのだけれども、断られた。知り合いにはできないのでしょうか?」とのこと。
友人や身近な人にロールシャッハテストをするとお互いに自分を出しすぎてしまい、その後互いの関係を保ちにくくなってしまうそうです。
質問された方も知り合いの方にそのようなことを言われ、断られたそうです。
自分の知らない自分を互いに知ってしまうことで関係を保ちにくくなる。
人を知るにはまず自分を知らなければならない。これは最初に吉岡さんが語った言葉です。
自分自身を知らない状態で他人の知らない他人自身を知ってしまうと他人を受け入れることができなくなってしまうのかもしれません。
人同士の関係は自分自身の全てをさらけ出すということではなく、他者を受け入れる態勢をどう自分自身の中に作り上げていくかということの繰り返しのような気がします。そのためには自分自身を知らなければならないというのも納得できます。
話はアサーションに移ります。
アサーションとは自他尊重の自己表現です。
「言うべきことを言う」のもアサーションですが、「言えるけれどもあえて言わないのも」アサーションです。
語りを聞いている時には気づきませんでしたが、こうやって報告書を書いているとロールシャッハ法からの話とアサーションが私の中で一連の流れとしてつながります。
最後に吉岡さんの体験を踏まえて、心理学は日常生活でどう役立っているのかなーというところを語っていただきました。
「人は自分自身の物事の捉え方の特徴を知っていることによって相手を客観的に理解することが出来る。」
「人は自分自身の感情や感じを手がかりに相手の理解を深め理解したことを基に傾聴したり、共感したり、提案したりすることができる。」
「人は自分の特徴を理解することによって自分をうまくコントロールできるようになる。」
例えば、「あの人いやだなー」と思ったとき、ユングの“シャドウ”という概念を知っていれば、実が自分自身のいやな部分を見ているのだと考えることが出来ます。
人が疲れているように見えているとき、“投影“という概念を知っていれば、自分が疲れているのを他者に見ているのではと考えることができます。
「臨床心理を学んで、自分自身は生活しやすくなっているかなー」
と、吉岡さんはまたぼそっと言われました。
続けて、
「心理学に触れなくても小説でも映画でも何でも自分を知る手がかりになりますよ。それがたまたま自分は臨床心理だったのかなー。」
と、
何の為に勉強をするのか、何の為に映画を観るのか、何の為に小説を読むのか、何の為に絵を描くのか・・・。
それ自分自身の姿を鏡に映して見るように、自分が生きているこの環境に自分を投影させ、はたまた過去に生きた人々の営みや思索に自分自身を投影させることで、自分を知ろうとしているのだと思います。
私はカフェペディアを通じていろいろな分野の方々に出会い、お話をうかがってきました。それぞれが学問的には全く異なる分野ですが、その時々の自分の抱えている問題や興味関心があることに結びつけて解釈してきたように思います。私は科学夜話カフェペディアを通じて、自分を知ろうとしているのかもしれません。
吉岡さんの語りは常に会場の参加者の様子を確かめながら、そして吉岡さん自身も語りをかみ締めながら進んでいきました。
後でその参加者からは「話を聞いてもらって、なんだか楽になったー。」との言葉をいただきました。
私のつたない文章による報告書では、吉岡さんのかもし出す雰囲気はなかなか伝わりそうにありませんが、この参加者の言葉が全てを語っているように思います。
今回は吉岡さんを紹介してくださった菊池さんも会場に遊びにきていただいており、アフターカフェペディアの時間には菊池さんによる“臨床心理学は落語である説“の展開などいろいろな話で盛り上がりました。
科学夜話カフェペディア、続けるほどにつながっていく場だなーっと思った夜でした。





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